手袋の選び方・使い方
Ⅰ. 手袋の役割
 手袋は、医療現場で最も頻繁に使用される個人用防護具(Personal Protective Equipment: PPE)です。手袋は、医療従事者の手指を血液や体液など感染性物質による汚染から守り、また医療従事者の手指から患者へ微生物の伝播を防ぐ役割を果たします。
 手袋が医療従事者の針刺しによる血液由来病原体(HIV、HBV、HCV など)の伝播をどの程度防ぐことができるかは不明です。手袋は中空針や縫合針の外部表面にある血液量を46 ~ 86% 減少させることができますが1、中空針の場合、内筒に残った血液は手袋の影響を受けないため、伝播リスクにおける手袋の効果は不明です2。針刺しによって伝播する血液量に影響する因子は、針のサイズと針刺しの深度が影響することがわかっています1,3


Ⅱ. 手袋の装着が必要な場面
 職業感染防止の立場から米国労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration:OSHA)や米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)は、血液、他の感染性物質、粘膜、創のある皮膚に触れることが予想される場合に手袋を装着することを推奨しています2,4
 また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)といった多剤耐性菌やクロストリジウム・ディフィシルなど接触感染によって伝播 する病原体を保有する患者のケアを行う場合も手袋は必要となります2
 標準予防策、接触予防策における手袋を使用すべき場面と手袋の交換が必要な場面を表1にまとめました。


表1. 標準予防策、接触予防策における手袋の使用と交換のタイミング
手袋を使用すべき場面
① 血液や体液、粘膜、創のある皮膚やその他の感染性のある物質に直接触れることが予想されるとき
② 便または尿失禁のある患者などの汚染されている可能性のある皮膚との接触が予想されるとき
③ 汚染しているまたは汚染が疑われる患者ケアの器具、環境表面に触れるとき
④ 接触感染によって伝播する病原体を保有する患者のケアを行うとき
 ④ -1 手袋は、病室に入室するときに装着
 ④ -2 患者に触れるとき
 ④ -3 患者周辺の環境表面や医療機器、ベッドレールなどの物品に触れるとき

手袋交換のタイミング
① 患者ごと
② 同じ患者でも会陰部など汚染した体部位から顔などの清潔な体部位へ手を移動させるとき
③ 汚染したとき
④ 破損やバリア機能が損なわれたとき
注)手袋は引き続き再使用するために洗ってはいけません
※手袋をしたまま手洗い、手指消毒しても微生物が手袋の表面から確実に除去されません5
 また継続して手袋の完全な状態が保証できません。

Ⅲ. 手袋の選び方
1)手袋の種類と用途
医療現場で用いる手袋の種類と用途を表2 にまとめました。

表2. 医療現場で用いる手袋の種類と用途
種 類 手術用手袋(滅菌) 検査・検診用手袋
(滅菌/未滅菌)
多用途手袋※1
(未滅菌)
使用目 本来無菌の組織に接触するとき 粘膜や創部に接触するとき
湿性生体物質に触れるとき
湿性生体物質に触れるとき
用途 手術などの侵襲的手技 検査、検診、治療、
汚染された器材を扱う場合
器具の洗浄、汚染物処理、
廃棄物処理
禁忌・禁止 再使用禁止 再使用禁止 粘膜・創部に使用しない
医療機器分類※2(国際分類※3) 管理医療機器(クラス II) 一般医療機器(クラス I)
※ 1 器具の洗浄や清掃時などに使用する、再使用可能な指先から前腕くらいまで覆える厚手の手袋。
※ 2 医療機器は、薬事法でその製造販売が規制されている。人体に対するリスクの程度により医療機器の種類が定義されており、製造販売承認にもリスク分類に応じた審査方法が取られている。管理医療機器である手術用手袋は、認証基準に基づく第三者認証機関による認証が行われる。一般医療機器である検査・検診用手袋については、届出制度となっている。
※ 3 国際分類 GHTF(Global Harmonization Task Force)では、医療機器を危険度の低いほうから、クラスI ~ IV の 4段階に分けている。

医療用手袋の規格

医療用手袋の規格として、世界最大規模の標準化団体である米国試験材料協会(American Society of Testing and Materials International: ASTM)が 策定・発行するASTM規格があります。手袋のホール(割れ目)の判定、劣化前後の最大伸張度、寸法(厚み・長さ・幅)、パウダー量などが規定されています。
また我が国においては、日本工業規格(Japanese Industrial Standard: JIS)が定める医療用手袋の規格があります。ASTM とJIS における医療用手袋の規格を表3にまとめました。
ASTMとJISの規格は、下記URLで検索することが可能です。
◦ ASTM規格 http://www.astm.org/Standard/index.shtml
◦ JIS 規格 http://www.jisc.go.jp/app/JPS/JPSO0020.html


表3. ASTM とJIS における医療用手袋の規格
規格の種類 手袋の種類 規格番号
ASTM 手術用ゴム手袋 D3577
検診用ゴム手袋 D3578
検診用ニトリル手袋 D6319
医療用ポリ塩化ビニル手袋 D5250
JIS 使い捨て手術用ゴム手袋 T9107
使い捨て歯科用ゴム手袋 T9113
使い捨て歯科用ビニル手袋 T9114
使い捨て検査・検診用ゴム手袋 T9115
使い捨て検査・検診用ビニル手袋 T9116

手術用ゴム手袋は、 ASTM、JIS 共に規格の中で天然ゴムとその他のポリマー製を分けて規定しています。
ASTM の検診用または医療用手袋は手術以外の医療への適用を含んでいます。
JIS は歯科診療の規格を別に設け、検査・検診用手袋は手術以外の医療への適用を含んでいます。
ASTM は、検診用または医療用の手袋をゴム(天然ゴムのみ)、ニトリル、ポリ塩化ビニルに分類して規定しています。
JIS は、歯科用、検査・検診用の手袋をゴムとビニルに分類し規格を設け、ゴム手袋の規格のなかで天然ゴムとその他のポリマー製に分けて規定しています。

2)手袋選択のポイント
手袋の素材には、天然ゴムラテックス、ニトリル、ポリ 塩化ビニル、クロロプレン、ネオプレン、ポリウレタンな どさまざまな素材のものがあります7。手袋を選択する際に は、これら素材の特性を理解し、業務に適したバリア効果、 装着感、アレルゲンなどを考慮に入れ選択します。医療現 場で用いられる代表的な手袋として、天然ゴムラテックス、 ニトリル、ポリ塩化ビニルがありますが、これらについてそ の特徴と用途を表4にまとめました。同一操作を行った後 の手袋のリーク率は、ラテックス手袋0 ~ 4%、ニトリル 手袋1 ~ 3%と低いのに対し、ビニル手袋は26 ~ 61%と 高いことが報告されています9。したがって、ビニル手袋は、 汚染リスクの少ない、短時間の作業に限って使用してくだ さい。
表4. 手袋の素材による特性と用途 (文献7 参照改変) >用途
主材料
(原料)
天然ゴムラテックス
(ゴムの木の樹液)
二トリル
(石油)
ポリ塩化ビニル
(石油)
手術などの指先を用いるような細かい作業 ラテックスアレルギー対策、検査、検診、ケア、薬品の取り扱い時など ラテックスアレルギー対策、感染性物質による汚染リスクの少ない、短時間の作業
バリア効果 強度、耐久性に優れている。穴あきに強いが尖ったものでは穴があく。洗剤などに対して防御効果がある。 穴あきや破れに対する抵抗性に優れている。化学薬品に対する防御効果が優れている。 穴あきや破れに弱い。尖ったもので容易に穴があく。化学薬品に弱い。
装着感 高い伸縮性で装着感は良好。フィット感に優れている。 高い伸縮性で装着感は良好。ラテックスよりやや圧迫感を感じ、フィット感に劣る。 伸縮性は低い。手首周りの寸法がゆるい。
アレルゲン ラテックス蛋白、化学物質(加硫促進剤など) 化学物質(加硫促進剤など) 化学物質(可塑剤など)
経済性 安価 やや高価 最も安価
注)抗がん剤の取り扱いに関しては、日本病院薬剤師会より発表されている注射剤・抗がん薬無菌調製ガイドライン8 を参照すること。

3)手袋による皮膚障害
手袋による皮膚障害は、天然ゴムラテックスに含まれる 蛋白質が原因で起こるラテックスアレルギー(I 型アレル ギー / 即時型過敏症)、手袋の製造過程で添加される 化学物質が原因で起こるアレルギー性接触皮膚炎(IV型 アレルギー / 遅延型過敏症)、アレルギー反応ではなく、 手袋のパウダーが皮膚を擦過したり乾燥させることや製造 過程に添加された化学物質の刺激により起こる刺激性接 触皮膚炎があります7,10。 なかでもラテックスアレルギーは、他の手袋による皮膚 障害と比べ深刻な反応です。天然ゴム製品に接触後、数 分以内に症状が出現し、症状は皮膚の掻痒感や紅斑、 蕁麻疹などから、鼻水やくしゃみ、眼の刺激、喉の痒み、 気管支喘息、また、まれにアナフィラキシーショックを引き 起こします10。アレルゲンとの接触は手袋との経皮的な接 触のほか、ラテックスアレルゲンが付着したパウダーが飛 散し曝露することでも起きます。医療従事者のラテックスア レルギーの予防対策として、ニトリル手袋のような非ラテッ クス製手袋の使用、または蛋白質含有量の少ないパウ ダーフリー手袋を使用することが米国国立労働安全衛生 研究所(National Institute of Occupational Safety and Health: NIOSH)や国内のラテックスアレルギー安全対 策ガイドライン2009(日本ラテックスアレルギー研究会) において推奨されています10,11。国内のある大学病院の全 医療従事者1,512 名を対象として実施されたラテックスア レルギーの実態調査では、3.3%がラテックスアレルギーと 確定診断されました12。 刺激性接触皮膚炎は手袋によって最も頻繁に起こる反 応です。予防方法は、刺激物との接触を避けることですが、 日常生活においても強力な洗浄剤や化学物質との接触を 避け、ハンドケアを行うことが重要です。ハンドケアを行う 場合、石油を主成分としたハンドローションは、天然ゴム ラテックス手袋の強度などに影響を及ぼすことがあるため 注意が必要です13

4)手術用手袋
手術用手袋は、手術スタッフの手指が患者の血液や体 液で汚染されるのを防ぎ、スタッフの手指から患者へスタッ フの手指の細菌(常在菌ならびに通過菌)が伝播するの を抑えることができます。手術時に手袋を二重に装着する ことに関しては、手術用ラテックス手袋を一枚(一重に) 装着した場合の方が二重に装着した場合の内側の手袋よ り、ピンホール発生のリスクが大きいことが報告されてい ます:OR4.10 (95% CI:3.30 ~ 5.09)14。また、CDCの ガイドラインにおいても、手袋の二重装着は、一重の手袋 の場合よりも患者の血液または体液と手指の接触が減るこ とがわかっているとしています15。 手術中の手袋交換のタイミングは、手袋に穴が開く など手袋のバリア機能が損なわれた場合に、安全面で 許される限り速やかに手袋を交換しなければなりませ ん。しかし、手術中に手袋のピンホール発生に気づく ことは困難です16。ピンホールのインジケータシステ ム手袋は、標準的な手術用ラテックス手袋の一重また は二重装着より容易にピンホールの確認ができます14。 インジケータシステム手袋は、カラー(通常、緑色) のラテックス手袋の上に標準的なラテックス手袋を装 着し、外側の手袋にピンホールが生じたとき、術野か らの水分が外側と内側の手袋の間に入り、明るい緑色 の染みとして確認できる手袋です。ピンホールの発生 頻度は、手術時間が長くなるにつれて高くなるため、 3 ~ 4 時間以上の手術では手袋を交換すべきです17

Ⅳ. 指導のポイント
  • 業務に適した手袋の選択(種類や素材)、個人に適したサイズの使用がきるよう準備します。
  • 装着後は、破損がないか確認します。
  • 使用後は、手袋の外側は汚染しているという意識を持ち、周囲の環境に触れず、速やかに外します。
  • 手袋を外す時、手袋の外側を素手で触らないよう注意します。また、勢いよく外すと手指や周囲を汚染する可能性があるので静かに外します。
  • 手袋を外した後は、手指衛生を行います。これは、認識されていなかった裂け目から感染性物質が入り込んだり、手袋を外す際に手指を汚染する可能性があるからです。
  • ラテックスアレルギーに関する知識が必要です。

手袋の着脱方法
着け方
surgicalmask
外し方
surgicalmask

文献
  • Mast ST, Woolwine JD, Gerberding JL. Efficacy of gloves in reducing blood volumes transferred during simulated needlestick injury. J Infect Dis 1993; 168: 1589-1592.
  • CDC. Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings.2007.
  • K r i kor ia n R , L ozach - Perl a nt A , Fer r ier- Rember t A , et al. Standardization of needlestick injury and evaluation of a novel virusinhibiting protective glove. J Hosp Infect 2007; 66: 339-345.
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  • Doebbeling BN, Pfaller MA, Houston AK, et al. Removal of nosocomial pathogens from the contaminated glove. Implications for glove reuse and handwashing. Ann Intern Med 1988; 109: 394-398.
  • 矢野邦夫, 向野賢治 訳・編. 改定2 版医療現場における隔離予防のための CDCガイドライン-感染性微生物の伝播予防のために-. メディカ出版, 大阪, 2007.
  • 横田誠, 内藤徹, 松永佳世子 監訳・監修. ラテックスアレルギーと正しい手袋の選択 予防こそ最大の治療. アンセル・ヘルスケアジャパン プロフェッショナル事業部.
  • 社団法人日本病院薬剤師会 監修. 注射剤・抗がん薬無菌調整ガイドライン. 薬事日報社, 東京, 2008.
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  • ラテックスアレルギー研究会. ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン 2009. 協和企画, 東京, 2009.
  • National Institute of Occupational Safety and Health. Preventing Allergic Reactions to Natural Rubber Latex in the Workplace. NIOSH Publication No. 97-135, 1997.
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  • 大久保憲 編. EBMにもとづく手術部・サプライ実践ガイド. メディカ出版, 大阪, 2001
 
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